ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった
渡辺温

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)眉目秀麗《ハンサム》な

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)却々|眉目秀麗《ハンサム》な

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)竪[#「竪」は底本では「堅」、150−6]琴
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 居留地女の間では

 その晩、私は隣室のアレキサンダー君に案内されて、始めて横浜へ遊びに出かけた。
 アレキサンダー君は、そんな遊び場所に就いてなら、日本人の私なんぞよりも、遙かに詳かに心得ていた。
 アレキサンダー君は、その自ら名告るところに依れば、旧露国帝室付舞踏師で、革命後上海から日本へ渡って来たのだが、踊を以て生業とすることが出来なくなって、今では銀座裏の、西洋料理店某でセロを弾いていると云う、つまり街頭で、よく見かける羅紗売りより僅かばかり上等な類のコーカサス人である。
 それでも、遉にコーカサス生れの故か、髪も眼も真黒で却々|眉目秀麗《ハンサム》な男だったので、貧乏なのにも拘らず、居留地女の間で
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