りウイスキーを舐めるばかりで、旺んなホールの光景を見物しながら待っていたわけである。
ヘベれけに酔っぱらった大そう年をとり過ぎた踊子《ダンサー》が、私の傍へ来て、ポートワインをねだるので、振舞ってやると、やがて彼女は、ダンス位出来なくては可哀相だから、教えてやると云って、私の両手を掴んで立ち上がるのであった。
だが、彼女は直ぐに、蝋引きの床の上に滑ってころがった。何度でもころがった。
私は到頭、やっかいな老踊子を、静かに長椅子《クッション》の上に寝かしてやらなければならなかった。
十二時にバンガロオを追い出されて、私達はさて、大方寝てしまった元町通りを、真直に徒歩で大丸谷へ向った。
『大丸谷は本牧より半分安いですが、悪い。そして、日本人は好かれませんよ。』と、アレキサンダー君は、私と腕を組ませて歩きながら云った。
草の生えている真暗な坂道を上がって行くと、左側に何々ホテルと記した、軒燈りの見える家が幾軒となく立ち並んでいた。
私達はその中で、一等堂々として見える新九番館《ニュウ・ナンバア・ナイン》を的にして行ったのだったが、玄関も窓も、すっかり暗くなっていたので、已を得ず、
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