悪いとか云ふのと同じで、全く、ノンセンスの話さ。即、我輩が述べたいのは、酒と吾々大人君子の境遇と、此の相互間の接触上に出て来る利害だ。其利害を云ふに付て、一応、我輩の所説、勿論、酒以外の、に付て聞いてもらはんければならない。
抑、吾々人間は、嗜好性と云ふ物を有してゐる。嗜好性を有して居ない人間は決してない。其嗜好してゐる物の、性質が高尚だとか、卑しいとか、高いとか、低いとか、そんな事は別問題として、兎に角に、人間には嗜好、何等かの嗜好がある。否、此嗜好が無ければ、人間は生存して居る事が出来ない、と云つても過言では無いと思ふ。吾々が、朝から晩迄、嫌ひな物計りやらされて居つた日には、どうして生きて居たいと云ふ考は出て来ない。此の嗜好、自分が好きな事をやる、と云ふ点で以て、人間は生存して居るのだ。所謂、生きがひが有るのだ。此の嗜好は、人間の生命と云つてもよい。斯様な大切な物であるからして、もしかゝる嗜好が、他人からして奪はれる、取られてしまふ、もしくは、無くなると云ふ様な場合には、必ず、第二の、それに相応する、或は、それ以上の嗜好を求めんとして、働く、否遂に求めなければ止まないのだ。これは
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