、事実を以て示さなくとも、解る筈だ。処で、吾々の今の状態はどうだ。成程、大人君子には相違ないけれ共、此の大人君子は、青年と云ふ大人君子だ。青年とは、他の言葉で以て云ふと、嗜好が非常に多い時代だ。何でも一寸気に向いた物は嗜好してしまふと云ふ時代なのだ。猫も来い、杓子も来い、と云ふ時だ。成程浅いかもしらぬが、広いさ。かう云ふ時代に当つて、所謂、大人君子なるものに、酒と云ふ嗜好を与へて見るとする。すると其結果はどうだらう。此所で一寸、酒の性質に付て云ふ可き必要がある。酒ぐらゐ微妙な物は無い。詩的な物はない。酒を呑むと云ふと、妙に気が大きくなる。六大洲は掌位にしか見えた物では無い。酒を呑んで中には泣く奴も有らう、怒る奴も有らうが、まづ大抵の者は、非常に愉快になつて来る、面白くなつて来る、無邪気になる。千鳥足になつて来る。こんな一種云ふ可からざるミステイカルな性質を以て居る物は他には有るまい。扨、斯う云ふ素敵な、面白い、愉快な酒なる者の趣味を、嗜好の馬鹿に多い、吾々大人君子に持つて来て与へるのだから、猫に鼠だ。忽に酒が好きになるのと云ふのは、無理もない話だ。其結果はどうだらう。勿論、学生の境遇だ
前へ
次へ
全44ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 放哉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング