物見たいな生徒が、「そー、メチヤ/\に云ふ程でもない、酒を呑むつて、決して害計りは存在して居ないよ」と云つた。調子が、馬鹿に高かつたので、フイと耳を傾けると、「総て君、物には両面ありさ。楯の表裏も古い話しだが、行くと云ふ裏には帰ると云ふ奴が隠れてゐる。上ると云ふのは下ると云ふのを意味して居る。要するに、燗徳利主義と云ふのだ。とは、其れ燗徳利は銅壺の中に、這入つたり又出たり、出たり這入つたり、這入るのは即出るにある処、出るは即這入る処と云ふのさ。何しろ、善い処と悪い処とは必ずクツ付いて居る物だ。一がいに、冬を寒いと云つて炬燵に尻を焙つて居る快楽を無視するのはいかん。成程、酒はストーム、始めてか知らんが、昨夜、君等が見たと云ふ化物連の事を、ストームと云ふのだ。其のストームの玉子かも知れん。だが、ストームの快不快、利不利は別問題としてもだ、酒なる物が、所謂、大人君子連に、与へて居る利害の点に関して、ストーム以外に、猶大なる物があるであらうと思ふ。我輩は、酒その物が悪いと云ふ事を、しば/\聞かされたが、此のその物が悪いと云ふ事は、根本的に云ひ得ない事だと思ふ。これは丁度、太陽その物が好いとか、
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