に、少々感心してしまつた。他の若い連中も、皆感心して居る様だ。すると、又、口を切つた者がある。
「俺も君等に、自慢話をして聞かせようかな。俺は四年君とは、少々方面の異つた方で、四年君が旅順と云ふなら、俺の方は沙河とでも云ひたいね」鬚があつたら捻《ひね》りたいと云ふ処だが、生憎《あいにく》、鬚もなければ手も無いから致し方がない。「其れは聞き物だな」、一同がおだてると、其の話しは次の様であつた。
「実は、俺がこれ迄行つてゐた方は、小使部屋、雪隠、湯殿、などの方面だつた。俺が初めて来た折は、西寮の小使部屋へ持つて行かれたのさ。勿論小使部屋だ、マツチ箱の様な中に持つて来て、角火鉢、大薬鑵、炭取、箒、寝台、布団、机、鈴、乃至茶碗、土瓶、飯箱、鉄串に至るまで、まるで足の踏み処も無い始末、もし火事が始まつた時には、小使はキツト焼け死ぬるに異ひないと思つた。秋小口はさうでもないが、追々と、富士山が白うなつて来る頃になると、小使部屋の火鉢にだん/\と、炭をたくさんつぎ出す、それと共に、生徒がこの狭い小使部屋に押しかけて来る。小使の椅子をチヤンと占領してしまつて、火鉢をグルリツと取りまく。尤も、こんな事を
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