とした洋服で以て、スラリと立つた所は、第一奇麗ぢや無いか。我輩は敢て華美を云ふのではない。清潔を云ふのだ。清潔は我四綱領の一つを占めて居る。翻つて、バンカラーを見るにだ、尤も近き例は君さ、モシヤ/\と味噌玉に菌の生えた様な頭で、シヤツの鈕《ボタン》はまるで無しさ。帯は割けてゐる、袴はポロ/\さ。おまけに異様な汚臭を放つに至つては、公平な眼を以て、決して左袒《さたん》する事は出来ないよ。我輩、豈敢て形式のみを云はんやだ。成程、天真爛※[#「火+曼」、第4水準2−80−1]は好いさ。しかし、今世界の人間がすつかり、マツ裸で往来したら何と思ふ、我輩が決して疑はない真理が有る。即「美は隠すに有り」だ。早い話が、今もし僕が君に向つて、「大馬鹿め、死んでしまへ」と云つたら、仮令《たとい》、友人の情で怒らぬかもしらんが、面白くないだらう、さ、其れを心に隠して居て、何も云はない、知らん顔して居る、と云ふ処で何事も美くしう行くのではないか。美は隠すに有りだよ。なんだか矢たらに形式にばかり走ると思ふかもしらんが、そーではない。と云ふのは、此ハイカラなる者は、僕は無邪気だと思ふ。即悪気と云ふ物がない。即悪う
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