ンヤリ眺めて居る。スルト窓の外から、「ドーダイ」と云ひ乍ら、顔丈出した奴が居る。「どーした」と白頭が云ふと、「今日は旧同室会だから残つて居るのだ」、と云ひながら、肱立をして窓を越えて部屋に這入つて来た。しかも靴のまゝだから驚く。よく見ると、顔の黒い、汚い容子をして居る。しかも其背丈が約四尺もあらうか、「チビ」と云ふ名ださうなが、成程、浅草者だと、俺もつく/″\感心して、出来る事なら、親の顔も見てやりたかつた。併し「チビ」先生は、土足でも、すこむるすました者で、話す、笑ふ、煙草を吸ふ、勉強もしないで饒舌くつて居る。何だか、又、議論が始まつた様だ。
「君はそんな事を云ふが、ハイカラと云つても、必ずしも排斥す可き者では無い」、と白頭がチビに向つて云つた。「勿論、我々は蛮カラを以て自任して居る。大人君子、向陵の健児にして理想としてゐる物だから、蛮カラーは大いに賞す可しだ。が、併しだ、君だつて花見に行かぬ事はあるまい。月を賞せぬ事は無いだらう。今、ハイカラーを見るにだな、頭の髪をスツカリと奇麗に分けた処は、丁度、雌浪雄浪がドー/\と、寄せては返す如く。雪の様に白い、しかも高いカラー、折目のシヤン
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