は、今迄留守で有つた仲間の一人だ。馬鹿に痩せた処が幽霊じみて居るので、幽霊とも、ネーベルガイスターとも云ふ名ださうな。今迄、ムキになつて居た二人は、俄に向きなほつて、「帰つたか」と云ふ。幽的は「オー」と云ひながら、成程、幽霊的な細い手を袂に入れて、掻き廻して居たが、「ソラ」と云ひながら、大頭の前に何か投げ出した。「何だ」と云ひ乍ら大頭は、つと其物を見たが、俄然、大きな顔に壊れる様な笑顔を見せて、「有難い、君ならなくてだ、浮んだよ」と云ふ。「其の大頭がか」、と白頭は笑ひながら、其或物を手に取つて見せたが、其処には、「風邪薬実効散」と書いて有つた。幽霊は得意気な顔付をし、傍に立つてスマして居る。成程、柄に無い親切な男だな、と俺も思つた。しかし此の親切も、金が有る時だけかも知れん。すると白頭は、矢張り口が悪い生れ付きかもしらんが、大頭に向つて「君、この薬は一服散と書いて有るぜ。一服丈呑まなければ治らないと見えるぜ」、と云ふと、「馬鹿な、一服丈なんて奴があるかい。一服で治らなかつた時は二服呑むんだ」と大頭は云ふ。「処が、そーで無い。見給へ、二服呑めば旧《もと》に帰ると書いて有るよ」、と白頭が真
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