だなど云ふ、此頃ださうだからね。悪に強きものは、善にも強しと云ふと、えらく寺の和尚の説法めいては居るが、全くだ。要するに、非常な極端と極端とは、又、尤も近い物で有つて、其間の差は、到底、認める事が出来ん。咲き揃つた万朶の花と、それから、散つてしまつた花とは、一は繁栄の極で、一は凋落の極だが、其咲いてそして散る時の美、考へて見ると、分秒の間髪を入れない処に有る刹那だね。知つてるかもしらんが、「見渡せば桜の中の賭博哉」と云ふ句が有るが、此時の賭博は、ずんと美しいではないか。此の間髪を入れずと云ふ処が面白い。ヤツと云ふ間に頸が落ちる、と云ふ処が面白い。頸の有る人間と、頸の無い人間と、それが、たんだ、ヤツと云ふ間に定まると云ふ、イヤ面白いぞ/\。
 扨、其続きだが、小便の音もぢきに遏《や》んでしまつた。と思ふ内、沙漠先生、何と思つたか俺を捕へた。と、それから後は君と同じ。グル/\のボチヤンさ」「オヤ/\そーかい」、中々小むづかしい事を云ふ奴だな、と思つて居ると、向うの方に居た奴が、「そーあんまり驚かない様にしろ、これからそんな事は毎夜だよ」此の赤毛布奴《あかげつとめ》、と云ふ顔付。古毛布め、何
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