色の黒い事、漆を塗つて其上に油をかけて、又、其上に磨きをかけて、そして、サハラ沙漠で一年乾かした、と云ふ奴だ」「なる程な」、「時は十二時過よ。君と同じ様に、寝室に這入つて騒いだね。しかもこの沙漠先生、頗る付の話し好きと見えて、ドツカと坐りこんだなり、いや話すは/\。笑つて見たり、怒つて見たりの一人舞台だ。此間約一時間。なに俺は、側で昵《ぢつ》と居眠の練習さ。スルト沙漠先生、ヒヨロ/\と立つて、ガラス窓をあけたと思ひ給へ。丁度、昨夜は十五日だ、満月さ。虫は鳴かなかつたが、皎々たる盆大の明光、中天に懸つて水の滴りさうな奴。長天繊影なく、大他閑寂たり、清爽寥然として向陵一夜秋懐深してんだ。起きて居るのは、例の沙漠先生と、憧々《どうどう》たる俺ばかりさ。突如、ザーと飛瀑の音を聞き得たり。何と思ふつて、小便の音さ。しかしそー笑ふ勿れだ。此の時程俺は、美くしう感じた事は無かつたよ。全く美化されたね、俺も沙漠先生も、殊に小便がだ。小便をするは須《すべから》く此時に於てす可しだ。名月、沙漠男、慥に俳句にはなるよ。美と云ふ奴は妙なもので、とんでもない物が、非常な美と変化する事がある。尤も、裸体が美の真髄
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