どれも負けぬ気と見える。負けたつて、どーでもいゝではないか。二度なら遂に二度、一度なら遂に一度ではないか。要するに、二が一になれはすまいし、一度が二度になれはすまい。太陽と月と、どつちが好いと云つた処で、太陽は矢張り太陽だ、月は矢張り月だ。外の連中は、皆こんどが始めてだと見えて、だまつて居る。何となく座が白けて来る。沈んで来る。皆、怒つた様な面をして居る。俺はこのめ入る[#「め入る」に傍点]と云ふ程、気に向かん事はない。沈んで居つても一日、浮んで居つても一日、白けて居つても一日、黒けて居つても一日、乃至、怒つても一日、笑つても一日だ。沈んで白けて怒つて居るよりも、むしろ、黒けて浮んで笑つて居る方が、何ぼーいゝか解りやしない。徳利よりか瓢箪、と云ふのが俺の主義、さうさ。主義だから、早速、俺の左に坐つて居た奴を捕へて話しかけた。「君もこん度が始めだね」と、聞くと「そーだ」と云ふ。「どんな風だつたい」と、チヨツカイをかけると、すぐ拘《かか》つたね。「矢張り君の話の通りさ。だが、君とは又、変つた事もあつたよ」と来た。「なる程」と答へると「君の時は六人ださうだが、俺の時は一人だつた。しかも其奴の
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