イトローズの香は、室内に充ち/\て、気も心もとろけ出してしまひさう。と、こんな事は嘘さ、それ処か、実は、何時の間にやら夜があけて居て、よく/\見ると、俺は一人で草の中に寝て居るのだ。併かも、頭の処に大怪我をして居るが、余り痛くもない。雀の子が、チユー/\と二三羽飛んで来て、珍らしさうな顔付をして、俺を見て居る。「オ早つ」と云はうとしたが、声を出す元気も無い。ボンヤリして居ると、頭の中に浮んで来るのは、昨夜の大難だ。化物が踊つてゐる処から、枕を蹴り飛ばす処、それから、石臼が俺を窓から投げ出した事。俄然、グイと、俺を引つぱり上げた者がある。又かと思つて、南無阿と云ひかけたが、フト見ると、俺を捕まへて居るのは、俺と仲の好い、小使の雑巾爺さ。ヤレ/\と胸を撫でて居ると、小使の奴は、何やらブツ/\と云ひながら歩いて行く。俺は、左の手にブラ下つて居たのだが、右の手の方を見ると、それにも俺の仲間が三ツ計りブラ下つて居る。どれも怪我をして居る様だ。妙な事も有る物だと思つてゐる内、何処だか、暗い部屋へ、イツシヨに投げこまれてしまつた。
 すると、どーだ、此処にも俺の仲間が、六ツバカリ坐つて居るではないか
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