い うつくしい名もしらない女よ


  黄色い馬

そこからはかげがさし、
ゆふひは帯をといてねころぶ。
かるい羽のやうな耳は風にふるへて、
黄色い毛並《けなみ》の馬は馬銜《はみ》をかんで繋《つな》がれてゐる。
そして、パンヤのやうにふはふはと舞ひたつ懶惰《らんだ》は
その馬の繋木《つなぎ》となつてうづくまり、
しき藁《わら》のうへによこになれば、
しみでる汗は祈祷の糧《かて》となる。


  朱の揺椅子

岡をのぼる人よ、
野をたどる人よ、
さてはまた、とびらをとぼとぼとたたく人よ
春のひかりがゆれてくるではないか。
わたしたちふたりは
朱と金との揺椅子《ゆりいす》のうへに身をのせて、
このベエルのやうな氛気《ふんき》とともに、かろくかろくゆれてみよう、
あの温室にさくふうりん草《さう》のくびのやうに。


  法性のみち

わたしはきものをぬぎ、
じゆばんをぬいで、
りんごの実のやうなはだかになつて、
ひたすらに法性《ほふしやう》のみちをもとめる。
わたしをわらふあざけりのこゑ、
わたしをわらふそしりのこゑ、
それはみなてる日にむされたうじむしのこゑである。
わたしのからだはほがら
前へ 次へ
全63ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大手 拓次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング