かにあけぼのへはしる。
わたしのあるいてゆく路のくさは
ひとつひとつをとめとなり、
手をのべてはわたしの足をだき、
唇をだしてはわたしの膝をなめる。
すずしくさびしい野辺のくさは、
うつくしいをとめとなつて豊麗なからだをわたしのまへにさしのべる。
わたしの青春はけものとなつてもえる。


  金属の耳

わたしの耳は
金糸《きんし》のぬひはくにいろづいて、
鳩のにこ毛のやうな痛みをおぼえる。
わたしの耳は
うすぐろい妖鬼の足にふみにじられて、
石綿《いしわた》のやうにかけおちる。
わたしの耳は
祭壇のなかへおひいれられて、
そこに印呪をむすぶ金物《かなもの》の像となつた。
わたしの耳は
水仙の風のなかにたつて、
物の招きにさからつてゐる。


  妬心の花嫁

このこころ、
つばさのはえた、角《つの》の生えたわたしの心は、
かぎりなくも温熱《をんねつ》の胸牆《きようしやう》をもとめて、
ひたはしりにまよなかの闇をかける。
をんなたちの放埓《はうらつ》はこの右の手のかがみにうつり、
また疾走する吐息のかをりはこの左の手のつるぎをふるはせる。
妖気の美僧はもすそをひいてことばをなげき、

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