くのだ。
うみ鳥のけたたましいさけびがそのあひだをとぶ。
これらの帆ぬのは、
人間の皮をはいでこしらへたものだから、
どうしても、内側へまきこんできて、
おひての風を布《ぬの》いつぱいにはらまないのだ。
よれからむ生皮《いきがは》の帆布は翕然《きふぜん》としてひとつの怪像となる。


  死の行列

こころよく すきとほる死の透明なよそほひをしたものものが
さらりさらり なんのさはるおともなく、
地をひきずるおともなく、
けむりのうへを匍《は》ふ青いぬれ色のたましひのやうに
しめつた唇をのがれのがれゆく。


  名も知らない女へ

名も知らない女よ、
おまへの眼にはやさしい媚がとがつてゐる、
そして その瞳は小魚のやうにはねてゐる、
おまへのやはらかな頬は
ふつくりとして色とにほひの住処《すみか》、
おまへのからだはすんなりとして
手はいきもののやうにうごめく。
名もしらない女よ、
おまへのわけた髪の毛は
うすぐらく、なやましく、
ゆふべの鐘のねのやうにわたしの心にまつはる。
「ねえおつかさん、
あたし足がかつたるくつてしやうがないわ」
わたしはまだそのこゑをおぼえてゐる。
うつくし
前へ 次へ
全63ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大手 拓次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング