カ想の画像をゑがくのだ。
香水を聞くのには、音楽を聞くのと同様に感情の扇が必要なのも、その理由はここにある。感情の波動のこはばつてゐる時は香水の表情は、よく聞きとれない。
自分の好きな香水、自分にふさはしい香水を選ぶには、大体の香気のほかに、その香水のなかにひそむ陰影を確めてからでなければならない。
何故といふに、その陰影は、ただ明るく、ほがらかに、媚にあふれ、姿態を誘ひ、そぞろ心を見せびらかす香気の外的表情の、散漫に陥りやすいのを緊張裡にひきとめ、内的表情にリズミカルな身ぶりをとるやうに不断の拍車をあてるからだ。
三
もの忘れした時のやうに、おぼえもあらぬ残り香の漂ひきて薄明《うすあかり》のなかをそぞろあるきするにも似た心地に誘はれることがある。
香水の持つ、この expression(表情)の魅惑は、更に鋭い感性の探針によつて、いよいよ豊かに、その盛りあがり、湧《わ》きたつ幻想曲を吾々の前に現出する。
香水は、それを愛用するものに、見知らぬ国を与へるのだ。薄明と夢との交錯する国でありうつらうつらとした青き白日夢《デードリーム》の国である。また、限りない漂泊の
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