「香水の表情」に就いて
――漫談的無駄話――
大手拓次

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)初夏《はつなつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)朝鮮|鐘《がね》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]ライオン歯磨本舗・広告部 悪の華
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[#地から1字上げ]ライオン歯磨本舗・広告部 悪の華

    一

 季節は移つてきて、香水の欲しい初夏《はつなつ》となつた。シヨウ・ヰンドウにも、美しい香水の瓶や、香水吹きが列《なら》べられる。デパートの香水売場で、若い婦人だちの香水撰択の情景が繁くなる。
 けれど、香水の複雑した表情に就いては、割合に無関心であるらしい。香水の表情とは、香水の良否の見分け方以外のことです。香気のもつれに出る細かい幻想の糸の織り成す感情の展開のことです。例へば、五月の表情を持つ香水もあり、六月の表情を持つものもあり、又は月光の表情を持つものもあり、霧の明方の表情を持つのもある。または、十七歳の少女の表情、廿歳の青年の表情、街の妖婦の表情、微風の表情、求愛の表情、青き夢の表情
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