香水の表情の音色を譬へてみると、私語《ささやき》、口笛、草笛、銀笛、朝鮮|鐘《がね》の夕暮|余音《よいん》、バイオリン、クラリネツト、バス、テノル、蝶の羽ばたき、木の葉のかすれ、雛のふくみごゑ等がある。これらも、香水選択の一助となるだらう。
この頃、フランスから来ている煉香は、あまり感心出来ない。耳朶につけるかなどしても、どうしても粉つぽくて駄目だ。種類は十四五種ぐらゐあるらしいが、どの香も、粘《ねり》稠剤の関係でか、香気の共通性があつて、香気は異るには異るのだが、香水ほど際立たない。之れも、特殊な場合の、特別な用途にはいいだらう。
香水をつける場所は、誰も知つてゐるが、爪の生え際とか、乳くびとか、耳たぼの裏側、手の甲、えりあしなども知つておいていいだらう。
具体的な例をとつてみよう。ここにコテイの l'aimant があそ[#「あそ」に「ママ」の注記]の表情を見ると、
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1、線は夕暁のする野路《のぢ》をゆく少女の右腕の内側のうぶ毛のそよぎ。
2、音色《ねいろ》は、霞むやうな銀の鈴の遠音《とほね》の断続。
3、季節は、三月下旬から四月の初めの空《そら》の
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