そこに香気の色彩楽をかなでさせることだ。
その人の全体的感じが金属的リズムを発散させるなら、やはり金属線の表情を持つ香水を選ぶべきだ。また、風に傾く雛罌粟のリズムを出す人なら同様にかすかなゆらめきの表情を持つ香水を選ぶべきだ。
女の人が、ある香水が好きだと思つたら、その香水を自分の精神のリズムや、肉体のリズムと比較して見るのがよい。そこに調和があればよいが、若し、矛盾する点のみなら、その香水は使用してはいけない。
だが、ある人は云ふかも知れない。その反対の選択法がよいのだと。それは破れだ。相殺だ。蛇悪の醸成だ。
たとへば、夕暮のソフアに倚る麗人――モダンな中に多少クラシツクな美を愛する貴婦人、この人の主観的客観的表情に合ふものは、何だらう。Wistaria の香料はどうか。すこし線がゆがんでゐるやうだ。ジヤサントなどを交《まじ》へてはどうだらう。アルベエルサマンの詩に、アンリ・ド・レニエの散文調の詩をまぜたやうなものがいいだらう。
前と重複するやうだが、香水の表情の線を譬へてみると、処女のうぶ毛、睫毛、細い絹糸、眉毛、人絹糸、毛糸、女の頭髪、女の頸脚の毛、銀の針金等がある。
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