アとの出来ない「自然の特質」が貫き漂つてゐる。
◇
けれども、その人の持つ感覚世界が一定の型のなかにとどまつてゐて、香水の発する放射線と快き合流を為《し》ない時は、その香水は、その人にとつて「開かざる蕾の花」であるか、又は、「半開の花」である。
かういふ人は、香水の話しかける言葉を読み得ない人である。香水の言葉と自分の感情とが手を結びあはせないのである。その言葉のこゑが聞えないのである。
香水の言葉を読みうるやうに成るためには、単純な花の香料から入つてゆき、最後に香料の極秘の殿堂に漫歩すべきであらう。
◇
ここに難問がある。heliotrope《エリオトロープ》(天然香料)と heliotropine《エリオトロピーヌ》(人工香料)との如き二つのものの表情的差別である。この二者は、放射する外貌は同じやうであるけれど、後者の方は前者に比して、表情線がこはばつてゐて、前者のやうな豊富な言葉の波動と幻想量とを有してゐない。二者の比較は、しかし、なかなかむづかしい。
総じて人工香料の香気の表情は沈澱性を帯び、その渦紋の回転数も少なく、どこかしら金属性の影を偲ば
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