ケるのが欠点である。そして、微《かす》かながらも、吾吾の夢幻への飛翔に対し、ある種の反撥性を蔵してゐる。
 けれどもです、自然の和《なご》みのなかに溶け入る黄金の針のやうに微動し戦慄する感受性を開花させないならば、人工香料の平面的な、固定的な、直線的な表情でも、十分に酔《ゑ》ふことが出来るかもしれない。
 要するに、香水を真に味ふには、見えざる感性の触手をはぐくみそだてることが捷径だ。
 吾々の見えざる触手が感覚の花の盛りを呼びきたすならば、香水の移りゆく香気は、まどみ[#「どみ」に「ママ」の注記]のなかに羽を搏《う》つ蝶のごとく、彼方此方に吾々の感情の色どりを植ゑてゆくだらう。



底本:「日本の名随筆48 香」作品社
   1986(昭和61)年10月25日第1刷発行
底本の親本:「大手拓次全集 第五巻」白凰社
   1971(昭和46)年8月
※冒頭の「ライオン歯磨本舗・広告部 悪の華」は、底本では署名の左に添えられています。
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2006年9月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(htt
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