ら、新吉はてきやの連中と大阪へ旅立つたと聞いたのも彼からであつた、――おしげはまるでおはまのところへよりつかなかつたのだ。
「さう、――ぢや、鬼のゐぬ間の洗濯ね」
「うん」
何気なく聞き流したその「うん」が彼女にも意外であつたが、おしげに影響してゐた、早速、次の日、一時間ばかりですませますからと、象潟町へ久しぶりに訪れた、二階では、夜番のおはまは臥てゐたが、顔を見るなり、秀ちやんはけふゐないの、とたづねるのであつた、何だい、お前なの、びつくりしたよ、と起きる母親に、重ねて、秀ちやんが何か云つてた、とまくし立てた。
ぢつと眼を離さずに、母親の様子からも、秀一との間を嗅ぎ出さうとしてゐた、若い頃から身の修《をさ》まらぬおはまを娘はよく知つてゐたのだ、新吉がゐるうちはとにかく、不在であるならば、とおしげは我になく気になつた。
最初は母親と彼がむすびつけばと望んでゐたのに、知らぬ間に、変つて来てゐたのは、彼女も男を知つたからであらうが、彼女は深くその矛盾について考へてはゐなかつた。――
「母あちやんか、母あちやんは稼ぎに行つたよ」
「さうお」と、おしげはむつとして見せたくなつて、急にそつ
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