ツプの声を待つたが一向応へがなかつた。
「馬鹿鸚鵡、何とか云つて見ろ。」
 彼は、フロラと教へ合ふ時のやうに最も簡単な一句を飽かずに繰り返したが、さつぱり験が現れぬので癪にさはつて思はず、
「バカツ! ゴツデム!」などと叫んだ。
「ぢや、せめて、これでも覚えろ――バカ、バカ、バカ!」
 一切不成功に終つて彼は、寝た。
 翌朝彼は、目醒時計の気たゝましいベルで飛び起きた。あんなことで夜更しをしてしまつたので、無闇に眠かつたが、そのベルを夢うつゝで聞いた瞬間に――おや、グリツプの声かな! といふやうな夢で、起きあがつたのであるが、相変らずぼんやり止り木にとまつてゐる鳥を見出すと、眠さのあまり無性に遣瀬なくなつたりして、嗽ひの水を口にふくむと憎むべき鳥を眼がけて、その頭にポンプのやうに浴せてやつた。グリツプは、止り木から滑り落ちて仰山な羽ばたきを立て、翼を拡げたまま格子につかまつて憾めし気に此方を眺めてゐた。
「バカ――腹下しの丸薬を服《の》ませるぞ。」
 彼は、鸚鵡の脚を手荒くねぢつたり、羽毛を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]つたりした。グリツプは鴉のやうな声をたてゝ苦悶した
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