鸚鵡のゐる部屋
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)稍《やゝ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)爽々《すが/\》しい
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一
フロラが飼つてゐる鸚鵡は、好く人に慣れてゐて籠から出してやると、あちこちの部屋をヨタヨタと散歩したり、階段を滑稽な脚どりで昇り降りしたりするが、
「お早う」も、
「今日は――」も知らなかつた。せめて二つや三つの言葉位は教へようと、はじめのうちは皆がかはるがはる努力したが、まるで教師を馬鹿にしてゐる見たいにキヨトンとしてゐるばかりで、決して何んな簡単な言葉でも覚えなかつたから、今では皆あきらめてしまつて、
「彼女は唖である。」とか、
「シヽリイ産のなまけ者だよ。」とか、
「変りものなんだらう。」など、軽蔑して相手にされなくなつてゐた。――が彼女はかへつてそれを幸福にでも思つてゐるかの
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