され続けてゐた扉なんだから、今朝になつてグリツプが此処に忍び込むといふ筈は有り得なからう――」
「それはさうだ。――だが、もうグリツプは発言しても好さゝうなものだね。」
「では――若しあなたが学校へ行くまでの間にグリツプが発言しなかつたら――今夜は、あなたの部屋に鳥籠と一処に彼女を移して置かうではありませんか。未だ発音法に慣れない彼女は、不図したハズミでなければ発言出来ないのでせう。明日の朝お前は、屹度グリツプの言葉で、眼を醒すに相違ないでせうよ。」
 そんなことを云ひながらフロラが鳥籠の扉を開けると、グリツプは床に飛び降りて羽ばたいた。そしてフロラが空の鳥籠をぶらさげて彼の部屋に行かうとすると、続いて廊下に歩き出したグリツプは二人の部屋の中間にある階段のところに来ると、あの奇妙に臆病気な、そして勿体振つた一足飛でのろのろと段を降つて行つた。――二人は何時になくグリツプの姿を好意を持つて見送りながら学生の部屋に引き返し、そこの窓台に鳥籠を置いた。
「グリツプだつて、朝御飯に降りて来たといふのに他の二人は何を愚図々々してゐるのだらう。――ハリヤツプ、ハリヤツプ。」
 グリツプが食卓の片隅
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