で陽を浴びてゐた。
「あなたが来るまでと思つてグリツプを閉ぢ込めておいたのよ。」
「どんな言葉を発したの?」
「グリツプから、それを聞くことにしませうよ!」
とフロラは微笑んで、卓子《テーブル》の上に鳥籠を置き換へた。
だが、待つても/\グリツプは決して発言しないのである。
「何うしたんだらう。今朝あたしが眼を醒すと、突然に言葉を発したのに……」
「で――お母さん達にさう云つたの?」
「いゝえ――。誰よりも先にあなたを驚ろかせてやらうと思つてゐたから……」
「――それにしても、一向何とも云はないではないか。――模範の言葉を示して見たら何うなの?」
それには答へずにフロラは、
「グリツプの声は、大変に太い声で、まるでブラツク・キングの寝言のやうに凄く、あたしは夢ではないか――と驚いたわ。」
「フロラ、それは夢だつたのだよ、あの物語をあまり熱心に音読した前夜《ゆうべ》の労《つか》れで――」
「あたし達は気づかなかつたけれど、昨夜音読の練習をしてゐた間中、グリツプはこの卓子の下で、聞いてゐたものと思はれるのね。――さつきは、炉台の上にとまつて、ちやんと、あたしの顔を見降してゐたわよ。閉
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