礼な人だこと――だから、あんたは野蛮人だと云ふのよ、婦人の前で、好くもそんな馬鹿/\しいことが平気で云へたものだわね。」
「いや、それが僕の讚嘆の言葉なんだよ、雪江さんの美しさを讚へる!」
二人が、馬鹿気た争ひをとり交してゐるうちに麻雀の連中が勝負を終ると、また、その中の一人が、
「僕は三谷に賛成だ。こつちの話に気をとられて滅茶/\に負けてしまつたぜ――。それあさうと此間誰かゞ提言した仮装舞踏会を今夜あたり開かうぢやないか――」
「皆なが、水着ひとつ――で、といふやつわ、あれあ実に花やかな思ひつきだ、近代的のバアバリズムも此処に至つて、その極致に達したと云ふべきだ。大賛成だ、ね、雪江さん、メンバーをかり集めようぜ。」
水着の舞踏会なんて、まさか実現もしなかつたが彼等は雨が降ると退屈に身を持てあまして何時も何か奇抜な遊びはないものかと逞ましい戯談《じようだん》を語り合ふのだつた。
「仮装舞踏会と云へば――」
とまた誰やらが、真面目さうに云ひ出した。「蔵に行くと、いろんな衣裳が沢山あるぢやないか。あいつを一番持出して、裃を着たい奴は裃、鎧武者に扮《な》りたい力持は甲を被り、奴《やつこ
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