夜の奇蹟
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)椽端《えんがわ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一番|年長《としかさ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あゝ[#「あゝ」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)さう/\
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一
海辺の連中は雨が降ると皆な池部の家に集まるのが慣ひだつた。暑中休暇の学生達が主だつた。麻雀に熱中してゐる一組があつた。窓枠に腰を掛けてマンドリンを弄んでゐるのは一番|年長《としかさ》の池部だつた。池部は学校を出てもう三年も経つたが、この旧家の長男で別段働く必要もなかつたので、天文学に関する書籍などを漁りながら静かな、だが殊の他憂鬱の日を送つてゐる境涯だつた。
「斯んなに雨が続くんなら俺はもう東京へ帰つてしまはうかな?」
部屋の隅の方に寝転んでゐた若者が、突然大きな声で欠伸と一処に唸つた。その男は、斯うして家に転がつてゐるのにも水着を着たまゝで、今迄、物凄い鼾声を挙げてぐつすりと寝てゐたのだつたが――。
「帰るんなら
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