、たつた今帰ると好いわ、隆ちやん見たいな野蛮人がゐなくなると清々と好ゝわよ。」
 雪江は椽端《えんがわ》の茶卓子《テイー、テーブル》で切りにトランプの独り占ひを試みてゐたが、札を並べながら済したまゝ、そんな独り言を云つた若者に一矢を浴せた。
「ちえツ、酷えことを云つてら――俺が野蛮人だつたら……さうだな、幾分まあ紳士らしいのはこのうちで池部さん一人位のものぢやないかしら?」
「違ふわよ――彰さん見たいなんだつてゐるんだから……」
「さう/\!」
 と若者は、さも/\自分が迂闊であつたといふことを大業にして、笑ひながら、
「滝尾さんといふ聖人が居たな。あんまりおとなしいんで、つい存在の程を忘れてしまつたわい。」
「雪江……」
 と、不図池部が妹の名を呼んだ。「滝尾は、雨の日だけ海岸散歩へ行くつて云つてゐたけれど、ほんとうか?」
「嘘よ――。相変らず離室《はなれ》で寝てゐるわよ。皆なが来てゐるから一処に遊びませんかツて、妾《わたし》が先刻お迎へに行つたらばね――」
 と云ひかけて雪江は、
「ちえツ、これあ、また駄目だ!」
 さう云つて持札を棄てると兄の方へ向きを変へた。
「いくら起しても、
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