池部さん、僕は、これは秘密なんだけれど、今年もまた落第しちやつたんですよ。」
「馬鹿ね。」
と雪江が笑つた。「秘密を、そんな大きな声で喋舌つても好いの?」
「あツハツハ……えゝ、もう破れかぶれだ――天気になれ、天気になれ、雪江さんの脚は綺麗だな! あの曲線が、ずうツと、斯う、胴仲に続いてゐて――あゝ[#「あゝ」に傍点]なつて、斯うなつてゐると……」
「三谷の馬鹿!」
雪江は、靴下も穿いてゐなかつた脚をスカートの中に秘《かく》さうとしたりしながら、
「あんたそんなことばつかし考へてゐるから落第なんてしてしまふのよ。海へ行つてゐても、あんたの眼つきと来たら、とても浅間しいわよ、百合さんや、照ちやん達も――三谷が一番嫌ひだつて云つてゐたわよ。」
などゝ毛嫌ひらしい言葉を浴せながらも別段不快といふわけでもなく、椅子の上に膝を立て、両腕で抱いてゐた。
「何うせさうでせうよ――だ。」
三谷はわざとふざけるやうに太々しく唸つたりしてゐた。「僕なんざ、たゞ正直なだけなのさ。誰だつて、女の姿を眺めて、さう云ふ空想に走らない人間なんて、無いだらう――滝尾さんだつて、おそらくは――だ。」
「まあ、失
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