に一列に並ぶと、今度は音楽が稍急調子に変つて、合図が入ると、腰から金色の扇を抜き出し、一勢に開くと、はらはらと天を煽ぎ、翻つて地に風を巻き起し、ちらちらちら――次第に急調子となる音楽に伴れて、虹が嵐に狂ふ有様で、客達は息も衝かずに眺めるだけであつた。稍暫くいろ/\な踊りが続いてゐるうちに、にわかに廊下のあたりから鬼やひよつとこや天狗の面の男が現れて、わあア! と叫んで踊り子を追ひ回す場面となる。鬼共はそれぞれ呪文めいた科白をうなりながら踊子に飛びかゝつて、その裾をまくらうとしたり、腕を引つ張つたりして、まことに落花狼藉の有様が展開されるのであるが、客達はこれを凝つと堪へて見物してゐるのが礼儀なのであるとの事だつた。つまりこれも踊りの一節なのであるさうだつたが、実に乱暴極まるしぐさで、鬼の手にかゝつてみやびやかな舞姫の白い股が現れたりするに至つては、しきたりのことも何も知らない海辺の連中にとつては、たゞもうハラハラとして片唾《かたづ》を呑むばかりであつた。鬼共に追はれて、やがて娘達の帯は解かれ、着物も剥がれて長襦袢一つになる騒ぎになると、ワツと感極つた声を挙げて悶絶した大名があつた。三谷
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