ら、そろり/\と宴席の中央に繰り込んで来るのであつた。――お納戸色に緋の源氏車をあしらつたあれらのそろひの衣裳は――。
「おゝ、あれは、あの人形の衣裳とそろひぢやないか!」
 左う気づくと滝尾は、わけもなく愕然として思はず手にしてゐる盃を取り落しさうになつた。
「雪江さんだ――あれが!」
 三谷が、思はず頓興な声で叫んだ。「あれが、さつきまでのあのモダン・ガールとは俺には何うしても思へない!」
「叱ツ!」
 と誰やらが、非難の合図をしたが、陶然としてしまつた加茂が関はず声を挙げて、
「何うしても俺には物語の中から抜け出て来た人物とより他には思へない――人形と云はうか、夢と云はうか――踊り子達の背《うし》ろからは甘美の後光が……」
「おい、加茂、そんな戯談を云ふのは止せよ――俺は、斯んな踊りなんてさつぱり面白くもないんだ。」
 池部は切りと、てれ臭い困惑の苦笑を浮べて――早く皆なが酔つてしまへば好いが……と呟いでゐた。葡萄酒でも酔ふ三谷や加茂は、もう泥酔に近づいてゐたが、異様な雰囲気のために酔が胸のうちだけで渦巻いてゐるのであつた。
 そして、滝尾も同じ状態であつた。
 舞踊隊は客の中央
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