ことを、使ひに出た下男から伝へ聞いて、村人はいち早く駆けつけたといふことであつた。
 村の娘達が、元禄袖の花衣裳をつけて、客の間をあつせんしてゐる様は、誰の心にも長閑な夢を誘ひ、真実、今の世にある想ひを忘れしむるに充分な光景であつた。
「これは何うも、何時の間にか大変な催し事になつてしまつたわけだつたな。」
 加茂が、きよろ/\しながら呟くと池部が、いや、どうせ一度は斯うして村の人達を招待しなければならない事情があつて、実は前々から仕度もとゝのへてゐたのだが、すつかり季節外れになつてしまつて困つてゐたところだつたので寧ろ好いきつかけだつたのさ。――「僕は、ほんとうを云ふと、年々これを行はなければならないといふしきたりが、酷くてれ[#「てれ」に傍点]臭くつて、君達でも居なかつたら到底機会を得ることは出来なかつたに違ひないのさ。変な習慣があつたものだな――」
 と池部は、ちよんまげの頭をがつくりと首垂れた。
 間もなく嵐のやうな拍手が巻き起つて、賑やかな音楽の音が物蔭から響いて来たかと思ふと、下手の簾がするすると巻きあがつて、一列の踊り子が、足拍子|悠《ゆる》やかに、花模様の振袖を翻しなが
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