。そして、それが破裂すると、飛びあがるまいとして囲炉裡のふちに獅噛みつくのだが、やはり、ぎよつと背中が無理に弾んで了ふほどの激しいクシヤミであつた。そんな弾みに逆らはうとして五体に止める力は、反つて窮屈な反動を呼んだ。
「アツ!」
と俺は思はず叫んだ。太吉の硝子眼玉が、勢ひ好く飛び出して、爛々たる焔の上に落ちたのである。これを彼は懸念して、クシヤミが破裂する毎に異様な力を込めながら震へてゐたのだ。
「アツ、眼玉が落ちてしまつた、ああああ!」
俺はおろおろして火箸を取るのであつたが、俺の騒ぎで初めてそれと気づいた太吉は、
「火箸はいけないいけない!」
と夢中で俺の腕をおさへた。なるほど人さし指位の太さで、二尺あまりの長さであらう鉄の火箸では、この上もなく危険だ。太吉は、とるものもとりあへず先づ黒の色眼鏡をかけた。彼は、そんな不体裁な眼玉を関はずに容れてゐる癖に、一方に変なはにかみやであつて、何んな切端詰つた場合にも眼玉の脱された眼窩を決して他人には示さなかつた。――彼は窓を閉めた。跣足で土間に飛び降りると、入口の扉に閂を入れた。そんな用意などは何うでも好ささうなものなのに、そんな大
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