がな?」
第八は仲々執拗だつた。
「ツアイス製などには相当のものがあるさうだが、色を合せるのが厄介でね……」
俺は空呆けるより他はなかつた。
「何だい、それは?」
第八は、それでももう不安さうに膝を乗り出した。
「東京の医療具店へ当人が赴いて、研究すれば、それこそ肉眼と寸分違はぬものを容れることは出来るのさ。然し、俺は太吉の右の眼の色も形も十分知つてゐるから、近いうちに取り計らつてやらうと考へてゐるのさ。」
もともと太吉のそれは俺の計らひで、何時壊れても代金さへ差支へなければ間違ひなく取り寄せられてゐたのだ。
すると第八は鼻と眼の間に深い皺を寄せて、
「止せ止せ!」
と、つまらなさうにはき出した。「余計な世話を焼くものぢやないさ。わしや、ほんたうに君の料簡が解らんのだよ。前々から云はうと思つてゐたんだがな……」
こんな山の天辺だといふのに第八は、何かに気兼する風に俺の耳に、悪臭を含んだ口を寄せた。俺は、思はず鼻をつまんだ。――「太吉を君は一体何う思つてゐるのか知らないが、奴はあれだけ君の世話になつてゐるくせに、わしのうちなどに来て酒に喰ひ酔ふと、徹頭徹尾君の雑言だよ。云は
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