ふことなしに、くしやんくしやんと、ハネツルベのやうに悠々と胴仲を折り曲げては、柿の葉がくるくると舞つてゐる窓の外へ上半身を乗り出してゐた。
「あんな喧嘩をしては帰るわけにもゆくまいね……」
俺が久良の上を案ずると、太吉も久良も俺が町から戻るまでは、到底二人で夜を共にすることは適はぬと萎れるだけだつた。俺が、屋根裏の寝室へ引きあげようとすると、久良は弁当をつくり終るまで待つて呉れと慌てるのであつた。
俺には、寧ろ太吉と久良の感情の状態が察知し難かつた。
いつものやうに久良は俺に送られて、風の吹きまくる畦道へ出た。翌朝は、雨でも出発することを更に俺は久良に約して橋のたもとで見送つた。水の上を巻いて来る風の音に交つて、太吉のクシヤミの響きが未だ続いてゐた。小屋のラムプは消えてゐたが、窓の中で餅を搗くやうな激しいお辞儀を繰り返してゐた太吉の姿が、白けた夜気の中にうつツてゐた。
四
町で用達を済すと、もう夜だつたので郵便局へは廻れなかつた。どこに泊らうかしら? と俺は、停車場のベンチで目をつむつた。台の宿を廻らずに、俺は山径ばかりを一気に駆け抜けたので半分の道程で町に着き、
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