掻いてゐた。
「早く木村程上達して、お百合さんの手を握ることを俺は切望してゐるんだぞ。」加藤は天井に眼を向けてそんなことをうなつた。
「俺も顔を剃らうや。」と木村も云つた。
「俺、今日こそ思ひ切つてお百合さんの傍に滑り込むよ、突き当つて、御免なさい、といんぎんに詫びるんだ、斯ういふ具合に。」
加藤は立ちあがつて、おどけた構えをした。
「おツと危いツ、で、斯う俺が抱き止めてしまふんだよ、斯ういふ風にさ――百合子の君を、どうだ、これには木村も敵ふまい。」
「うむ。」と木村は生真面目に点頭いてゐた。そして微かに赤くなつた。
「あゝ、あの髪の毛に一寸でも好いから触つて見たいな、ブルブルツ!」と宮部は仰山な身震ひをした。
「抱き止める拍子に転んでしまつたら、どうだらう。」加藤は調子づいて叫んだ。「何しろ脚には車が付いてゐるんだからな。……危い/\で、しつかりとつかまるぜ。」
「一寸今此処で、その要領を練習して見ようかね、加藤は家だと熱を吹いてゐるが、いざとなれば、口も利けないんだからなア、加藤がやらなければ僕がやるよ/\。」宮部も軽く亢奮した。
「何しろ面白い遊戯が訪れて来たものだ。」
加藤
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