明るく・暗く
牧野信一

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)陽《ひかり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ごろ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]

 天井の隅に、小さい四角な陽《ひかり》がひとつ、炎《も》ゆるやうにキラキラと光つてゐた。湯槽《ゆぶね》の上の明りとりから射し込んだ陽が、反対の壁にかゝつてゐる鏡に当つて、其処に反映してゐるのだつた。
 純吉は、先程《さつき》から湯槽に仰向けに浸つて、悠々と胸を拡く延しながら、ぼんやりとその小さな陽を眺めてゐた。――快い朝だ、と彼は沁々と思つた。……帰省して以来間もなく一ト月にもなつたが、その間、何といふ懶い日ばかりが続いたことだらう。
 秘かに想ひを寄せてゐた照子は、勝ち誇つたやうに嫁《かたづ》いてしまつたし――加《おま》けに高を括つてゐた学校は落第してしまつたし、……。
 そんなことを思ふと口先だけでは勢ひの好い虚
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