い、役に立たないカラ元気ばかりを煽りたてゝゐるんだ――卑しい妄想と、愚かな感傷と、安価な利己心と、陰鬱な夢と、その癖いけ[#「いけ」に傍点]図々しい愚昧な策略とを持つてゐるんだ。……あゝツ!)
そんな他合もない心を動かせてゐるうちに彼は、ふつと気持が白けたかと思ふと、わけもなくにやりとセヽラ笑つた。若しも其処に相手がゐたならば、その人はおそらく「馬鹿にするなツ」と憤慨するに相違ない。純吉は近頃独りの時そんな風な薄気味悪い笑ひを浮べるのが、何時の間にか自分でも気付いてゐない習慣になつてゐた。
(……彼女は、ボストンの郊外に、母親と二人で小さな果物店《フルーツパーラー》を経営してゐるさうだ。E――といふ混血児の小娘だ、混血児は軽蔑されるかな、そんな馬鹿な話はあるまいな、だが頓興にも程があるぢやないか、そのE――が、E――が、俺の妹だなんて、気味が悪いな、気味が悪いな!)
突然に純吉は、そんなことを思ひ出した。(やつぱりあの[#「あの」に傍点]ことは気にかゝつてゐると見えるな、だがあんな不気味なことは思ふまい/\。)
E――のことを或る偶然の機会で知つて以来、純吉は自家《うち》に起伏《
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