けもなくほツとして、星が一杯輝いてゐる窓外の空を見あげた。
(斯んな時に、沁々とした孤独に浸らう、そして印象的な詩を作つてやらう。)
純吉は、そんなことを思つて静かに眼を閉ぢたが、何の「詩的な霊感」も浮ばなかつた。驢馬の耳のやうに鈍重な神経ばかりが、執拗に嫉妬深く百合子の姿を追ひかけたり、光りのない未来の空漠が不安な雲となつて五体を覆ひ包んだりするばかりだつた。
スケートの音が遠雷のやうに響いたり、また純吉の眼近く崇大なオーケストラのやうに渦巻いてゐた。純吉は、影のない夢見心地でぼんやりと眼を視開いてゐるばかりだつた。
「大さう六ヶ敷い顔をしてゐるな。」
宮部は、純吉を浮きたゝせてゞもやるらしい心意《こころ》で、そんなことを口走つて彼の前をかすめ通つた。
「やれよ/\。」続けて加藤の声もした。
「俺ばかり百合子さんを教へてゐるんぢやテレるよ。」木村は、純吉の耳にそつと囁いで滑つて行つた。
「少し勢ひをつけると、片方の脚だけで一週出来さうだわ。」
百合子は歌劇女優のやうに、わざとらしく脚を挙げて走つてゐた。
(俺だつて出来ないこともあるまい。)皆なの注目が反れた時、純吉はそんなに
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