「ランプの明滅」を書いてゐる光景を回想した。
「スケートへ行かう。」
苦い顔をして縁側へ現れた純吉を見あげて宮部が云つた。
「厭だ/\。」
「小説でも書くのか?」木村が意地悪気にからかつた。
「木村はイヽ加減の了見で他人の気持を推し計らうとするから失敬だぞ。」
純吉は、憤つとしてそんなことを云つたが、それは相手に喋舌つたのか? 自分で自分を冷笑したかたちなのか、解らなかつた。
純吉は、自分の気持の何処にも力の無かつたやうな愚しさに打たれた。そして、わけもなく無しや苦しやして来て、
「君たちも、さつさと湯に入つて来ないか!」と怒つたやうな調子で云つた。
「皆なで一緒に入らう/\、狭くつたつて関《かま》ふものか。」宮部がさう云つて、先に湯殿へ駆け出すと、木村も加藤も、すつぽりと其処に着物を脱ぎ棄てゝ、おどけた格構で続いて行つた。
純吉は、折角晴れ/″\した朝の気持を忽ち奪はれた気がして、照子のことを思ひ出したり、また落第のことを思つたりして――酷く気が滅入り始めた。
(寝てしまはうかな!)彼は、そんなことを思ひながら、庭の青葉に降り灑《そゝ》いでゐる光りを、物憂気に眺めてゐた。
「
前へ
次へ
全31ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング