んやりと私の顔を視守るのであつた。そして彼は自分の仕事の説明をしたばかりで、相手の私に関しては何も訊ねることもなく、たゞたゞ私の顔ばかりを一心に眺めつゞけるばかりであつた。そして頭の中に何かのかたちを描いてでもゐるらしく、凝つと眼を据えたまゝ、私の鼻やら口つきやらを抉るやうに視据えるのであつた。――だが、私も彼の職業を知らされて見ると、それも殆んど気にならなくなり洒々と酔つたまゝ、
「面《めん》などといふものは、天狗とか、ひよつとことか、もともとあんな荒唐無稽な型ちが決つてゐるものゝ、やはり普通の人間の顔が参考になるといふ場合があるものなんですかね?」
などと開き直つて質問したりした。
「あります。――やはり、はつきりと、その度毎にあるんです。わたしは……」
彼は言下に答へた。――「腕の先では出来ません。怖ろしい夢ばかりを見るんです。何と申したら好いやら云ひやうもないんだが、夢が、眼の前に探し当てたものゝ汐にのつて、実を結ばない限りは、天狗も鬼もあつたものぢやない……」――「御面のかほつき[#「かほつき」に傍点]なんていふものは、それあもう此方の了見が汐にのつたあとなら、何が六つか
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