で、わずかに口が開いたまゝ喉の奥が空々しく鳴つてゐるだけなのであつた。
「やあ、また振られ同志の顔が出遇ひましたね……」
彼はそう云つて、なほも奇天烈なワラヒ声をつゞけてゐた。
「厭なことを云はないで呉れ給へよ、おもしろくもない。」
私は迷惑さうにつぶやいた。
「だつて、お前さんの顔には、ちやんとそうかいてあるんだもの……」
「……何うでも好いや。」
私は横を向いて、煩さがつた、――まつたくきのふの彼ではないが、私としても斯んな状態の折から、幾度びもそんなことを耳にすると、一層気持が滅入るばかりで途方に暮れずには居られなかつた。
ほんのわずかばかりの酒で、私はその時底もなく酔つてしまつた。――どんなはなしを彼と取り換したか殆んど記憶もないのだが「御面師《おめんし》――御面師とは?」
と私は彼が何かのはずみに、私に、おめんしですよと云つた時、さつぱり意味が解らずに訊きかへしたのであつた。
「般若とか、ひよつとこ――とか、そんなものをつくるのがしようばいなんで……」
さう云ふと彼は、ぐつたりと肩の力を抜いてふところへ向つて吐息を衝き、再び顔をあげると夢でも見るやうな眼つきで、ぼ
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