でなければ自分の仕事は出来さうもない。」
 と突つぱなした。誌しもしないのだが、彼の言のうちにはさつきから頻繁に、Rさん、Rさんといふ名前が出没してゐたのだ。
「わたしが居たら邪魔になりますか?」
「今迄は気にもならなかつたんだ。然し、若し邪魔になつても、さしあたり行き場のない時にはさうも云はないが、Rさんと、そんなはなしが出来たといふんなら、君にしたつて其方へ行つた方が運が向くだらうよ。」
「妙なことは云はないで下さいよ。わたしは何うしても此処で、一つだけはこしらへて、あなたへ置いて行かなければ気が済まない。」
「僕は御面なんて欲しくないんだ。」
 斯んな場合のそんな返礼などといふわざとさに私は敵はなかつた。
「欲しくなくつても、わたしは置いてゆかずには居られないんだ。」
 と彼は飽くまで強情を張つた。
「…………」
 私は、そんなものを置いてゆかれることが、ほんとうに迷惑だつた。
「止めて呉れないか、僕は子供の時分から御面といふものが妙に怕くて……」
「だから、好みの注文を出して……」
「しつこいな。好みも何もありはしないよ。君には僕の云ふことが解らないのかしら。僕は御面なんていふ
前へ 次へ
全24ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング