叔母に依ると、凡そK叔母の言たるや、吾が母の意志には非ずして、K叔母は寧ろ吾が心を苛立たしめて(以下五行抹殺……筆者)一家の団欒を希ふはもとよりなり。されど、この心の、母を敬ひ得ざる不幸の、怕るべき佗しさの(以下四行抹殺……筆者)所詮、吾には母を放擲してまでの放浪性は抱けぬものならむ。その零落こそを待ちて、吾はすゝみて扶養の任をはたしたき念なり。」
 日記に現はるゝ私の片言は、何処をひらいて見ても惨憺としてゐた。
 或る日御面師は、Rの振舞ひで、よろよろと酔つて戻つた。
「何だつて、もうお好み次第のものをつくつて御覧にいれます。それについては、是非ともひとつあなたには、これまでのお礼のためにお贈りいたしたいんですが……」
「折角だが僕は貰つても仕方がありませんから、Rさんが世話をして呉れると云ふんならそつちへ売つた方が好いでせう。」
「いえ/\……」
 と彼は行儀好く手をついて首を振るのであつた。「是非ともこの部屋に、わたしの仕事を一つ遺させて戴きたいんで……」
 彼がそんなことをくど/\と、申し立てはぢめると、私は何故か急に腹が立つて来て、
「Rのうちへ行つて呉れ。僕は、やはりひとり
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