けぬと云ふのだが、人に云ふべき類ひの煩悶はないのだ。此処は自分の仕事部屋だから酔ふた人に来られるのは迷惑だ! と、たつたこれだけのことさへ云へぬのは何うしたといふことであらう。」
「作家志望だと称する泥酔の佐田某なる老村吏が現れて、最もあやふやな自然主義の主張を喚きたてた。猥雑聴くに堪えざるものであつた。或る時の吾酔態にも似たるかと慄然たり。」
「町から来たる妻に、口を極めて罵らる。何故に多くの縁者を振り棄てぬのか? といふのであつた。吾に生活能力の欠けたるは、その間の怯堕がわざはひする所以なりと非難の声尽きず。多くの縁者の吾を軽蔑すること夥しき由、かゝる渦中に再び戻りたる吾が所業の不甲斐なさを妻は哭して止まず。」
「R叔母来りて、先日送られしものゝRの行衛皆目不明にて未だ会はざりしといふ。此処に同居を促したれど、吾が身辺のうそ寒き気はひを察してか諾かず、深更に至りて町へ戻り行く。劇中の人物にも似たる悄々たるさまなり。」
「K叔母来りて、吾と吾が母との同居をすゝむるなり。母は既に零落して、子の帰来を待つ由なりと伝ふれど、K叔母の所存こそ信じ難きものなり。R叔母の言とおそらく反対にて、R
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