めながら夢見るやうな眼つきを保つたりした。すると、更にR子が、A子のその顔つきについて何か囁くと、A子は笑ひ転げて椅子から飛びのき、卒倒でもしたかのやうに烈しく寝台に倒れて、頭からタオルをすつぽりとかむつて、その中に四肢をかぢかめて丸くなつたりした。するとR子が駆け寄つて、タオルを奪ひとつて、打つ真似をしたり、腕を引つ張り合つたりした。
漸く茶卓が終るとA子は、シヤツを着換へて、別の側にある姿見の前に立つて、何か誇り気な様子で自分の姿を眺めた。そして、R子に向つて、何か説明しながら体操に似た運動のポーズを次々に示した。
R子は端の方に寄つて、A子の運動をぼんやり眺めてゐた。そして、合間々々に何かいち/\点頭いてゐた。
僕は、運動競技に関しては、この若さであるにも拘はらず全く無智なる徒輩であつたから、いつもA子はR子に向つて、何かの運動競技の構へや要領に就いてのコーチをしてゐるらしいのだが、僕には、それが何種の運動かさつぱり訳が解らなかつた。
……僕は、いつも彼女の口許の動きを見て、会話を想像するのが癖になつてゐた。動作と営みと表情などを仔細に注視してゐれば、言葉などゝいふものは
前へ
次へ
全15ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング