風媒結婚
牧野信一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)飽性《あきしやう》である
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)それ[#「それ」に傍点]は
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)きちん/\と
−−
或る理学士のノートから――
一
この望遠鏡製作所に勤めて、もう半年あまり経ち、飽性《あきしやう》である僕の性質を知つてゐる友人連は、あいつにしては珍らしい、あの朝寝坊がきちん/\と朝は七時に起き、夕方までの勤めを怠りなくはたして益々愉快さうである、加《おま》けに勤めを口実にして俺達飲仲間からはすつかり遠ざかつて、まるで孤独の生活を繰返してゐるが、好くもあんなに辛抱が出来たものだ――などゝ不思議がり、若しかすると、あいつ秘かに恋人でも出来て結婚の準備でもしてゐるのかも知れない――そんな噂もあるさうだが――そんなことは何うでも構はない。
兎も角僕は、この勤めは至極愉快だ。
僕は、Girl shy といふ綽名を持つてゐるが、近頃思ひ返して見ると僕のそれ[#「それ」に傍点]は益々奇
次へ
全15ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング