応用してゐるのに気づいたであらうか。」などゝ読んでゐるうちに新橋駅に着いたので僕は、独りになるつもりで先にたつて降車すると、二人も続いて降りるのであつた。
脚並豊かに歩いて行く二人は忽ち僕を追ひ越して改札口を出ると、傍らから一人の紳士に呼びかけられた。見るとA子の父親である博士であつた。
「おい/\、丁度好いところで出逢つた。一緒に銀座でも散歩しようぢやないか。」
と博士は娘達を誘うた。と娘達は何故か、ちよつと狼狽の気色を浮べてたじろいだが、苦笑を浮べて点頭いた。
「やあ、君も……」
その傍らに、思はずぼんやり立つてゐた僕を見出して博士は、
「娘と一緒なのかね?」と訊ねた。娘達は吃驚して僕の方を振り向いた。
「いゝえ――」と僕は慌てゝ否定した。気易い博士は緩やかな微笑を浮べて、
「差支なかつたら一緒に散歩し給へな。紹介しよう、これが僕の娘で、こちらが……」と二人を僕に引き合せた。
僕は、落ついてゐるつもりでゐたが、いろ/\なことを思ひ出して、わけもなく慌てゝしまつた。僕は、今、執務時間であるから――などといふことを、いんぎんな調子で述べてから、それが何んなに非常識な行動であつた
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